山下雄作さん|『Boulangerie Yamashita』店主 @神奈川 二宮
10代の終わり
*
デンマーク行きの目的は
あったようで、なかったのかもしれない
"この社会から抜け出したい"
そんな気持ちだったように思う
フォルケ・ホイスコーレ* での日々を過ごして
僕はデンマークの人々にすっかり魅了されてしまった
それでも、自分の住処は日本にあって
帰国後は、いつしか社会に映し出される姿を追って
ある種の "スタイル" を生きるようになっていた
そんな毎日に追われる中で
すべてがリセットされるような時がやってきた
幸せとは、何だったかー
いったい自分に何ができるのかー
わからなくなっていた僕の前で、
子どもはパンにかじりついていた
鮮明に映った「食べる」という
いのちを繋ぐ僕らの本能
"食べることに、泥臭く、手を動かして関わりたい"
30代
*
再出発は、誰も知らない町がよかった
二宮の地で出会った、何年も使われていない古い家屋
ここから、地に足をつけて生きていく場所
これからは、ただ、自分のためじゃなく
遠いビジョンは、特にいらない
8年前、Boulangerie Yamashitaをはじめる時に
友人から届いた赤い林檎で起こした酵母は
僕の手元で今も生きている
日々、きょう食べるパンを捏ね
跡形も残らないパンを焼く
きょう、この日を生きるため
「本当に尊いものが日常にある
素朴でシンプルなデンマークの暮らしが
僕はやっぱり好きなんですよね」
「生きようとする本能。
それだけでじゅうぶんに美しいから
なるべくシンプルでありたいです」
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*フォルケホイスコーレとは デンマークの哲学者 グルントヴィが「すべての人に教育を」というコンセプトのもと設立した全寮制の教育機関。年齢や国籍を問わず、国の助成を受けて多岐にわたる分野について学ぶことができる。
https://youtu.be/VNk1oSBlcBE
▲山下さんは18歳の頃、デンマークはFyn島にあるフォルケホイスコーレで一年を過ごした。